2005年08月のアーカイブ

宇多田ヒカル 「SINGLE COLLECTION VOL.1」

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 駅のホームに着いた。ゴミ箱の『その他のゴミ』の中に堕胎児がギチギチになって詰め込まれているのを承知の上で、宇多田は使い終えた乾電池を口からぺっと吐き出す。
 中央線快速に引きずられる看護婦の死体には、これといって便利な生活の知恵を生み出すためのきっかけは見当たらない。手さぐりな日常が一日でもあるとするなら、人生は悪意の海に溺れていくことに等しい。
 労働の側面には金銭への欲望がピーナッツバターのように張り付いてやがるんだ…。
 宇多田はポケットから見たことも無いような古びたコインを取り出すと、痴漢防止ポスターの下に転がっている浮浪者に投げつけた。
 それで処理できる問題など皆無だったのである。
 辛辣な批評、何も考えていないクセにやたらと自分の音楽を絶賛するガキども。
 憎い気持ちはある。だが、宇多田は全てを呪おうとはしない。転覆させるには、きっかけと地盤が必要だからである。
 ある日、宇多田はインタビュアーをゴミでも見るかのような目つきで、適当に相槌を打っていた。インタビュアーの質問、「あなたはスネアの音にボーカルが被らないように歌っていますが、アレは意図的にやっているのですか?」 宇多田は紫煙を吐きつつ、その馬鹿馬鹿しい質問に答える。「全ての行動は意図的であると言えます。もし偶発的な要因での行動であったとしても、私の意識化での出来事ですから、それは意図的であったと言えるのです」
 相手は大きな欠伸をした。
 宇多田は殺意の赴くままに、そのインタビュアーの大きく開かれた口へ手を突っ込む。
 右手、そして左手。両手がインタビュアーに飲み込まれると、その口の中から闇が広がっていく。
 部屋が漆黒に塗り込められ、怨念と情念と、そして常識の皮を被った俗悪が宇多田の全ての毛穴から侵入してくるのが分かった。
 引き裂かれて顎から上がぶらぶらと皮一枚で繋がっているインタビュアーに、宇多田は深く一礼すると、すぐさま次の取材へと向かった。ミュージシャンである、という認識が崩れ去らない限り、宇多田は歌うことをやめないつもりなのだろう。
 自動的(オートマ)とはそういうことだ。

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高柳昌行 NEW DIRECTION  「live independence」

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 球体の中心を範囲の概念を無視して定めるのならば、それは点となるのかそれとも球体となるのか。
 どちらにしろ生活的ではない、もしくは日常との関連性が無いという理由で我々が関心を持たない問題は多々存在している。
 例えばA地点からB地点へ行く時、A→Bを直線で結ぶと、その線には無限の点があるため、Aを出発した人は永遠にBにはたどり着けないということになる。ところが、AとBを「自宅」「駅」などに入れ替えて考えると、常識的にはおかしなことになってくる。我々は常にそのA→Bへの移動を行っている訳であり、それが「不可能」だなどといわれる筋合いも根拠も無いのだ。
 というような、思考の途中(この場合A→Bの移動の問題)であからさまにおかしいという猜疑の気持ちが芽生えてしまうと、次にやってくるのは「どうでもいい」という放棄・諦念である。そしてこの放棄のパワーというものが絶大なのだ。
 高柳昌行のギターは大音量で全ての聴き手の思考を放棄させてしまう。爆撃のような演奏が開始され、それがまったく通常の音楽ではないと聴き手が判断したと同時に、その思考を根こそぎ刈り取ってしまうのである。
 まさに観念の芝刈り機のような彼の演奏は、今もなお絶大な影響力を持って我々の音楽に対する思考を初期化させてくれる。下手な理念や思考を開始する前に、高柳のギターは概念の核爆弾のように脳内で爆発し、すべてをストップ、無効化してしまうのである。
 驚くべきその演奏は、数々の作品で聴くことが出来るが、本作でのわりと聴きやすくライヴということもあって効果的なギターこそ、まず最初に聞かれるべき演奏であると思う。

投稿者 asidru : 20:43 | コメント (0) | トラックバック

GISM 「Detestation」

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 朽ち果てたメタルやパンクなど必要ない。
 ここにあるのはまったく新しいモノ。ランディ内田はやはり天才ギタリストだった。
 というのもここ数日の間、本作収録の「ナイトメア」をコピーしまくっているからであって、実際に弾いてみて初めてわかるランディ内田の「凄み」みたいなものを痛感したからである。
 まず、リフの間に挿入される奇怪なハーモニクス。これがまた難しい。通常の音楽ではあり得ない筈の構造がいきなり最初のリフで飛び出すのだからその時点でかなりの驚きだが、ソロに突入すると更に複雑怪奇な動きを行わなければならず、ランディ内田はこんなのをよく弾いていたなぁ、などと間抜けな顔で感心しっぱなしだ。
 ソロに入ってからはまず速弾きのピッキングでごまかし、ランディ内田氏特有の小指多用スケールをかました後、謎のトリルを挟んで、鬼のようなチョーキングにまたトリル。キメはいつもハーモ二クスかアームでびよびよやればなんとかなるのだが、通しでソロを弾くのは至難の技である。
 で、うまくソロをキメたとしても、その後にまたあのリフのハーモニクスが待ち構えている。ここで多くのギター・キッズが命を落とした筈である。実際聴いてみても分かるとおり、ランディ内田氏自身も、ソロ後のハーモニクスは少々暴れ気味でヤケクソ感が伝わってくる。これは中途半端な意気込みじゃ弾けない曲だ。
 で、聴けば聴くほど、ランディ内田氏のプレイはランディ・ローズのプレイを曲解してアレンジしたものであるというのが良く理解できた。ランディ・ローズのトリルやハーモニクスを、ランディ内田氏は独自のアレンジ(リフの間にハーモニクスなどの変則使用)として消化しているのであり、そこに横山サケビ氏のボーカル(咆哮?)が絡むのだから『早過ぎたメロディック・デス・メタル』といわれても不思議ではない。
 実際、ここまで面白いギターを弾くハードコアのミュージシャンを私は他に知らないし、彼のギターを「メタル」の一言で片付けてしまうようなことはしたくない。
 全国のギター・キッズ(この呼称も80年代メタルっぽくてなんか抵抗あります)は、今こそフライングVを買ってランディ内田先生のプレイをコピーしてみよう! きっとその奇怪なプレイに脱帽するだろうから。
 まぁ、それで二度とギターを弾かなくなってもいいし、ギズムのコピーバンドを始めたっていい。ランディ内田という素晴らしいギタリストがいたことを、今後絶対に忘れてはいけないということだけ伝えておきたかった。
 ランディ内田氏が亡くなり、もうだいぶ経つが、彼のギターに憬れたハードコア少年たちはまだたくさんいるし、私もその一人である。
 ギズムの曲はメタルもパンクも関係なく、ただ純粋に「カッコイイ曲」だった。だから私は初めてギズムを聴いた時の新鮮な気持ちを大切にしたい。ジャンルもクソも関係なく、ひたすら強度のある音楽を私は好きでいたいのである。
 
 ちなみに、ジャケをスキャンしたら反射しまくって黒っぽくなってしまいました。皆さんどうやってこのジャケを取り込んでいるんでしょう? 謎です。
 

投稿者 asidru : 20:57 | コメント (0) | トラックバック

久生十蘭

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 久生十蘭といえば「黒い手帳」。
 探偵小説の概念をすべて粉砕し再構築した凶悪な作品である。
 魅力はその物語としての構造、及び「探偵小説である」というカテゴリを見事に破壊したことにあり、今でもこの短編は新鮮な衝撃を伴って我々の前にある。
 これからこういった古典作品が正当に評価されないならば、探偵小説の復権などありえないし、かつての熱いマグマのようなどろっとした興奮は二度と甦らないだろう。
 若手作家は今一度「黒い手帳」を読んで、ミステリに夢中になった「あの頃」を思い出して欲しい。すべてが魅力的だったアンダーグラウンドなあの香りにもう一度浸って、面白い小説について一度考え直してみれば、娯楽としての文学が新しく発展していくことができると思う。
 まぁ、『攻略法などない』わけだが…。

投稿者 asidru : 22:48 | コメント (0) | トラックバック

NINE INCH NAILS 『WITH TEETH』

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 トレント・レズナーはどこに行こうとしているのか?
 冷たい感触、痛々しいまでのボーカル。そしてあの衝撃音。
 かつて「フラジャイル」を出した頃に「ギターは弦が六本もあるからおもしろい」というようなことを語っていた。同時に発せられる音数が多いという利点を、果たして彼はどのように活用したのか?
 すべての答えはここにある。一曲目、いきなりボーカルが裏返りそうになるところがあるが、その不安定さもナインインチネイルズを構成している重要なファクターの一つなのである。
 ナインインチネイルズのロックは、音響的な意味での重みではなく、かつてのシド・バレットにも通じる表現者の内面にある重みなのではないだろうか?
 そう考えたとき、ここにある透明さと暗さ、そして重さの根源となる風景を垣間見ることができる。ナインインチネイルズとはトレント・レズナーの心の内部の情景を映し出す鏡なのであって、同時に外部へとそれを伝達する装置としても機能しているのだ。
 恐るべきもののように思えるかもしれないが、そうではない。これは治療であり、癒しの音楽だ。トレントの内面が浄化されるために、彼はこうして作品を発表しているのであるし、我々はここにあるものを聴き、トレント・レズナーという闇を理解しなくてはならない。
 ロックが受け手だけのエンターテイメントとして機能した時代は、既に終わっている。

投稿者 asidru : 21:33 | コメント (0) | トラックバック

NIKKI&THE CORVETTES

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 ガールズパンク・パワーポップ系の金字塔的作品。パンクスの女の子たちはみんなこれを聴いてコピーしたりしたんでしょうね。
 今でも人気の高い一枚ですが、ルックスは…なので、まだまだ一般層には認知されていないようです。ただ、これだけクオリティの高いポップ・パンクなのだから、普段女性ボーカルのポップスとか聴いている人にはオススメしたいです。
 楽曲はとにかくポップなロックンロールです。シンプルでキャッチー。王道で誰にでも分かるタイプの音楽だと思います。
 こういうパワーポップ系のパンクは評価されにくいみたいですが、ここ数年わりと再発などが続いていて、密かに盛り上がっています。この時期にぜひ、当時の若者の演奏に触れてみてはいかがでしょう。いろんなバンドがあってけっこう面白いです。

投稿者 asidru : 20:57 | コメント (0) | トラックバック

沈黙のピアニストの真実と虚偽

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 05年4月、イギリス南部の海岸をずぶ濡れになって歩いている男が発見され保護される。彼は一言も喋らず、紙とペンを渡すとグランドピアノの絵を描き、実際に保護した社会福祉士がピアノの前まで連れて行くと、物凄い勢いで突如ピアノを弾き始めたという。
 彼の演奏力は驚異的なもので、その場に居合わせた全員が息をのんだ。
 数々のクラシックの名曲が、礼拝堂のピアノから奏でられた。
 このことは全世界に報道され、彼は謎の「ピアノマン」と呼ばれるようになった。

 しかし、05年8月22日、英国のデイリー・ミラー・タブロイド紙にピアノマンの正体が判明したという記事が掲載された。全世界は天才ピアニストの正体に注目し、既に4ヶ月もの間その真実が伝えられるのを待っていたのである。そしてその結果はとんでもないものであった。
 ピアノマンの正体はピアノなどまったく弾けないドイツ人だったのである。
 彼はパリで職を失い、海岸で自殺しようとしたところを保護されたのだという。そして、もともと精神病棟で働いていた関係上、精神病患者のフリをし、医師たちを見事に騙し、ピアノも実際には弾いていないものの、周りが勝手に「素晴らしい演奏だった」とウワサし、今回の騒動にまで発展したというわけである。
 ピアノマンは芝居だった。
 その衝撃は、謎の天才ピアニストが発見された! という第一報よりも大きかった。なぜなら、魅力的だった筈の謎が、反則的なまでの『真相』によって一瞬にして無効化されたからだ。いままで作り上げたピアノマンという存在自体が、砂の城のようにあっけなく崩れ去ってしまう。その幻想の発端であった「物凄いピアノを海岸で保護された謎の男が演奏した」という事実そのものが「無かった」のであるから、話そのものがすべて解体されてしまったのである。
 根本を失った幻想は、いまではただの現実のなんともない出来事のうちの一つとして、今後誰の興味もひくことはないだろう。ピアノマンはいなかった。その事実だけで充分に刺激的なのだから、ニュースに飢えている我々にとっては調度いいのかもしれない。
 
 

投稿者 asidru : 06:30 | コメント (0) | トラックバック

DIO 「HOLY DIVER」

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 メタル界の北島三郎ことロニー・ジェームズ・ディオの傑作1st。
 一曲目の疾走感がたまらない。鼻の穴もたまらない。
 いくらハイトーンでも顔面がサブちゃんなのでなんとも言えません。が、やはりヴィヴィアン・キャンベルのギタープレイが好きなので、メタルキッズたちにとってもわりと高い人気を誇っているようです。
 ディオといえばレインボー、エルフ、ブラック・サバスなどでの活躍にも注目ですが、どのバンドにいても歌唱法が一緒なのでイッパツでディオだと分かる便利な人ですね。ここまでスタイルの変わらない人も珍しいです。
 とにかく一曲目「Stand up and shout」のヴィヴィアンのリフとソロを聴いてみてください。疾走感と破壊力に満ちているので、メタルファン以外の方でも楽しめると思います。

投稿者 asidru : 22:25 | コメント (0) | トラックバック

Pico 「abc」

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 樋口康雄ことピコ、19歳の素晴らし過ぎる1stデビューアルバム。日本最高のソフトロックであり、今もなお根強い人気を誇っている名曲「I Love You」も収録されている大傑作。一時期クラブで流れまくったので聴けば「ああ」と思う人も多い筈。
 こんな傑作が72年の日本で生まれていたということにも驚くが、ここにある楽曲はほぼ一日で作ったというのだから更に恐れ入る。ピコの才能は当時の日本ではズバ抜けているとしか言えない。
 「I Love You」は部屋で一人で聴くのもいいが、クラブの暗がりでときたま照明を浴びながら踊る子たちを見ながら聴いたり、自ら踊ったりするのが一番いい。最高にキュートでポップ。恥ずかしいぐらいにいい曲が詰まっているジャパニーズ・ソフトロックの最高峰である。
 長らく廃盤になっていたが、クラブでの人気も手伝って何年か前にCD再発。そして今度はアナログでも再発されたそうである。やはり良い音楽はこうして語り継がれていくべきなんじゃないかなぁ。
 金目当てのリバイバルや商品としての再発にはウンザリだけど、聴きたい人が聴きたいモノを手にすることができるという意味での再発なら大歓迎だ。ピコのこのアルバムも、CD化すると聞いたときは腰を抜かすほど嬉しかったし、もちろんすぐに買ったわけなのだが、いまだに一切遜色無く聴くことができるので重宝している。
 一曲目「あのとき」を聴いた時点で、ほぼ全てのソフトロックファンはノックアウトだろうし、僕もまた再生して10秒で魂をもっていかれた。ピコの美しい音楽はこれからも語り継がれていくし、多くのリスナーを魅了していくのだろう。
 日曜日…。みなさん、今日はピコの曲を聴きながら、何か楽しいことを思い描いてみてはどうでしょう。美しい風景、思い出、恋愛、未来など、ピコの音楽は全てをやさしく切り取ってみせてくれる。
 

投稿者 asidru : 04:55 | コメント (0) | トラックバック

若いこだま ECHOES OF YOUTH

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 コンピレーション。ヤン富田やカトラ・トゥラーナ、ハネムーンズなんかが参加しており、とても深いところの音楽で全体的に薄暗い感触。
 商業的なテクノポップが道化的感覚を保有していたのに対し、ここにあるようなニューウェーヴは退廃美から生まれる新しい感覚を求めていたように思える。
 クールではなく、シュール。しかしそこからファニーな感覚を取り除いているがため、奇怪な造形が露出している。
 日本という島国で生まれる異質な音楽は、他のフィールドから見てもやはり特異なのであろうか。海外でもこういったレコードは人気があるらしく、日本にはこのような盤が溢れかえっていると思われていそうだが、実際日本に住んでいる我々でさえ見たことの無いようなレコードが海外で取り引きされているのを見ると、そこに異論など唱えられるはずもなく、どうにも複雑な気分である。
 せっかく日本にいるのだから、母国の音楽くらいは知っておこうかな、と思ってから様々なレコードを買い集めるようになってしまった。これはその内の一枚である。
 
 

投稿者 asidru : 03:26 | コメント (0) | トラックバック

HARMONIA

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 電子音の漂白は何も生み出さない。ただそこへ引き寄せられた魂が動作するだけである。
 70年代に鳴り響く電子音の何と豊かなことだろう。
 このハルモニアと題された音楽は、クラスターやノイとは別の視点からサイケデリックを見せてくれる。
 戸棚にしまってあるクッキーの缶の中には、果てしない闇がつづいているんだということを幼い僕に教えてくれたのがこの音楽だった。
 教会の風景、電子音が作り出す大自然。そして極彩色の闇。
 絶望することに慣れていないならば、明るく終末を迎えればよいのである。
 クラスターの二人にノイのミヒャエル・ローターが加わったこのハルモニアというユニットは、常に終末を感じさせるのに明るい解放感を含有した音を構築する。それがニューウェイヴの根本にあるものだと言われても、僕らはそれを疑ってやる。なぜなら、解放感を伴った終末など、絶望のプロセスには含まれないのであるし、それを望んでいる人間もこの世にはいないからだ。
 人はみな終末を無意識に回避している。それを思わぬ方向から気づかせてくれるのが、ローターのギターであり、クラスターの電子音なのである。
 ハルモニアの一枚目。奇妙でぎこちない、極上の音楽がここにある。

投稿者 asidru : 03:02 | コメント (0) | トラックバック

遠藤ミチロウ 「Ⅰ.My.Me/AMAMI」

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 新譜を買わなきゃ! と思い、悩んだ挙句に購入したのがこのミチロウさんの新譜。
 弾き語りになってからのミチロウさんは年々凄みを増してきて、ここではもう完成されたスタイルでの味わい深い弾き語りが聴ける。スターリン時代しか知らないという人にこそ、ここにあるシンプルな歌を聴いて欲しいし、スターリン時代を知らないという人にもオススメできる。まさに遠藤ミチロウな歌詞をあの声で歌うのだから、絶対に感動します。
 ミチロウさんの弾き語りライヴでは、みんな真剣な表情でミチロウさんを呆然と眺めており、中には感動のあまり泣いている人もいたりしました。私も何度も観たわけではありませんが、スターリンとは別の魅力が、彼の弾き語りのステージにはあるように感じられました。
 初めて聴くなら二枚組みベスト「アイパ」がジャケもオシャレでオススメですが、本作での「蛹化の女」は戸川純ファンでなくとも必聴です。ミチロウさんといえば「カノン」なわけですが、今回は戸川純の歌詞でカバーしています。後半やたら盛り上がって、シャウトするミチロウさんが素晴らしくカッコイイ。これは意外な組み合わせだったわけですが、聴いてみてなるほど、と感心かつ感動しました。
 何か新譜でも買おうかな、と思っている人にこれはオススメの一枚です。

 

投稿者 asidru : 00:13 | コメント (0) | トラックバック

CASBAH 「ロシアンルーレット」

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 スラッシュの王道!! ジャパニーズ・スラッシュといえばこの人達です。
 カスバ、一時期再結成(オリジナルメンバーはハトリさんだけ)してましたけど、やっぱりこの時期の鬼のようなスラッシュが好きです。
 以前 METAL-CAT! 氏がライヴを観たときに「世界一速い曲やるぜぇ~」と言ってこのロシアン・ルーレットをぶちかましたらしいです。ちなみにその後「お前らの知らない曲やるぜぇ~」と言ってアイアン・メイデンのカバーをやったらしく、その音源はもし残っているなら聴いてみたいです。カスバのアイアン・メイデンって…。おそろしい。
 やはりスラッシュはこうでないといけませんね。殺人的なスピードで突っ走るカスバの演奏は、彼ら自身が言うとおり世界一速いスラッシュ・メタルだったのであるし、現在聴いてもまったく古さを感じさせないかっこよさに満ち溢れている。
 
 

投稿者 asidru : 18:14 | コメント (0) | トラックバック

ロリポップソニック

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 投影された甘い音楽は、限りなく立体的になって目の前まで迫ってくるが、色彩は淡く半透明に近い。もしも、極彩色のサイケデリックをあなたが求めているのならば、本作はオススメできない。しかし、モノクロームの甘い世界に浸りたいならば、彼らのポップ・ソングが最適だろう。
 ほぼフリッパーズ・ギターで再録されているが、ロリポップ・ソニック時代の方がよりダイレクトにポップミュージックを構築している。
 個人的には再録はおろか公式なリリースもされていない「GO!」や「自転車疾走シーン」といった楽曲にこそ彼らの真価があると思う。「GO!」は思いっきりアノラックサウンドで、リズムボックスのバージョンはグルービー・リトル・ナンバーズを彷彿とさせる。「自転車疾走シーン」は小沢君のボーカルがもっとも生かされている楽曲である。
 ロリポップソニックの音源はとにかく音質が最悪だが、楽曲そのものは良質なのであまり苦にはならない。ただ、もうちょっと良い音質で残っていたらなぁ、と思うと残念でならない。

投稿者 asidru : 14:13 | コメント (0) | トラックバック

Super Chunk

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 ニルヴァーナのヒット後、いかにして第二のニルヴァーナを探すか、というのが当時の音楽業界での命題であったように思う。そこでその候補として囁かれていたのがこのスーパーチャンク。
 ただ、グランジというよりはシューゲイザー寄りの音楽性であったが故に、「砂糖の多いマッド・ハニー」などとメチャクチャな位置づけをされてしまった不幸な人達である。
 現在彼らのデビュー盤である本作を聴くと、ポップかつノイジーという80年代~90年代半ばまで続いたギター・ロックバンドの暗黙の了解をここまで素直に体現できていることにまず驚く。
 スーパーチャンクはこの後も的確なアプローチで独自の地位を築いていくのだが、このデビュー作ではとにかく衝動的な「ポップでノイジー」が詰まっているため、初めて彼らの音に接するならここからをオススメしたい。無邪気に音を出している彼らが、後にあそこまで職人的に成長していくのだというプロセスを追うために、アルバムを発表順に聴いていくのも面白いだろう。

投稿者 asidru : 19:24 | コメント (0) | トラックバック

MOBS

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 三枚目とかは売ってしまったのですが、この二枚は物置に封印されていました。
 やはりこの時期の関西のハードコアはおっかなくてカッコイイです。
 モブスといえばモホークスなんですが、モホークスの音源は残念ながら持ってません。以前とある経路でライヴテープを入手し、聴いていたのですが、そのテープも何度目かの引越しの際に紛失してしまいました。あとはメマイという物凄くカッコイイ人達がいたのですが、これまた音源や資料はナシ。ナシといえば「ナシ」という人達もありましたっけ? この周辺はまだまだ深いです。
 もともとモホークスのメンバーがこのモブスと、バウズというバンドに分かれたのですが、個人的にモブスはメチャクチャ好きだったので、バウズの方はあまり聴いてないのです。
 この二枚で聴ける危険な香りのハードコアはとんでもなく凄まじく、ゾウオとかメマイ、ギズムなんかが好きなら確実にオススメです。って、そこら辺聴いていたらこれも聴いてますよね。
 割と体育会系というか、ドスの効いたボーカルや重みのある演奏のため、おっかない感じが滲み出ていますが、ライヴはもっと怖かったそうです。ちなみに私は見てません。多分怖くて今でも行けないかも。
 一時期(モブスの時代から10年後ぐらい)お化粧バンドが流行りましたが、モブスの化粧は他のバンドのようになよなよした感じではなく、逆に怖くて最高でした。あんな怖いメンバー写真は他ではあまり見ないですね。個人的に大好きなバンドです。

投稿者 asidru : 22:27 | コメント (0) | トラックバック

the COMES 「NO SIDE」

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 明朗闊達な表現であれば、どのようなバンドでも評価されると思ったら大間違い。根本にあるべく表現に対する思想の質・量・輝きが、少しでも曇っていたり軽々しく設置されているならば、そんなものはゴミに等しいのである。
 カムズは圧倒的な音とイメージ、方向性で我々を魅了した。当時としては珍しい女性ボーカリストのチトセが放つ強烈な歌詞と、本物のハードコアサウンドが提示したものは、聴き手を巻き込んで爆発するようなタイプの『運動』であったのではないか。
 84年に解散するまで、カムズ単独での作品はこの12インチしか出ていない。ライヴでしか聴けなかった名曲「悪徳事務所」など、未発表曲も数多いのでコンプリートで再発を望みたいところだが、やはりドグマから出ていたせいか、一向に再発の気配は無い。
 このままカムズというバンドが忘れられてしまうようならば、日本でのハードコアなど無意味だ。この時代にこの音を出していたという事実がある限り、ハードコアは輝かしく存在しているし、次世代へと思想的な伝達もなされる。
 日本のハードコアの記念碑であり、現在でも充分な威力を保持しているこのレコードは、私にとって最高の宝物であって、なおかつ教科書でもある。

投稿者 asidru : 20:17 | コメント (0) | トラックバック

HOLD UP OMNIBUS

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 本日二発目のHCコンピ。
 これも強烈です。8インチでポスターになるジャケも手作り感覚が溢れていて嬉しい一枚。
 参加面子はシステマ、グール、クレイ、ガスタンクの4バンド。
 何がいいって、ここでのテイクはどのバンドもカッコイイんですよ。王道のシステマから始まって、グールも妙にカッチリした演奏で燃えるし、クレイはもともと音源少ないから嬉しいし、ガスタンクもこの時期はかなり初期だからハードコア的な切れ味があって面白いんです。
 たしか84年作なんだけど、この時期の最先端HCといった感じで興味深いレコード。現在聴いても充分破壊力あります。
 ハードコア史上に燦然と輝く大名盤です。

投稿者 asidru : 21:28 | コメント (0) | トラックバック

OUTSIDER

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 強烈なコンピです。Gism、Comes、Laughin Nose、Gauze、Masturbation、Full X、Route 66、Madam Edwarda と参加面子だけで、どんな内容かは分かると思います。
 針を落とすといきなりギズムのA面ばかり聴いていたのですが、先日久しぶりにマスベの方のサイドを聴いたら意外とカッコよく、Full XやRoute 66といったストレートなパンク・バンドも埋もれさせてしまうにはもったいない魅力があり、このレコードの凄さを再認識しました。
 この時点で物凄い貫禄とインパクトのギズム、「なんでもいいから金をくれ!」というチトセのシャウトが頭から離れなくなるカムズ、まだ荒削りなサウンドのラフィン、有無を言わさないカッコよさで圧倒する帝王ガーゼ、熱病にうなされているような悪夢サウンドのマスベ、直球なフルX、ロックンロールなルート66、そして奇怪なオルタネイティブバンドのマダムと、これだけ個性豊かなバンドが集まっているだけでも重要な一枚です。
 シティロッカー(ドグマ)が再リリースしないため、大変なプレミアがついていますが、聴く機会があったら絶対に接して欲しい一枚です。82年の日本のハードコアがここまで凄いものだったという事実を、なるべく多くのハードコア好きに知ってもらいたいのですが、再発はないのかなぁ…。
 権利の問題にもめげずに再発してやるという気骨のあるレーベル・オーナーの方、ぜひこのアルバムをマスタリングして再発してください!! と一応言っておきます。

投稿者 asidru : 19:17 | コメント (0) | トラックバック

Jefferson Airplane

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 デビュー40周年。凄いですねぇ。こんなベストも出たし、そろそろジェファーソン・エアプレインも一般的に支持されてもいいんじゃないかと思うが、スペンサー・ドライデンが亡くなったというニュースがほとんど日本で騒がれていない現状を見ると、まだまだ鎖国的な性質が我が国にはあるのか、などと思ってしまう。
 以前デッドのジェリー・ガルシアが急逝したときもそうだったのだが、ロックの偉人が死んだところで、俺たちには関係無い、というような態度を日本のメディアはとっているような気がする。何かの雑誌で故・隅田川乱一氏も指摘していたが、このままの状態だと、日本のロック界で死者がでても、報道機関はいっさい騒がないんだろうな、という不安を強く感じる。たとえば水谷孝や山口フジオが死んだところで、誰もその死を報道しようとしないだろう。本当は絶対的に報道すべき内容だと我々は考えるが、メディアの判断基準というものは曖昧かつ適当なものであるということを、スペンサー・ドライデンの死と、それを大々的に報道したアメリカのマスメディアは浮き彫りにしたのである。

投稿者 asidru : 21:02 | コメント (0) | トラックバック

NIRVANA 「nevermind」

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 ワイパーズやブルー・チアー、ブラック・サバスにブラック・フラッグを混ぜた感じのサウンドでなぜか大ブレイクしたこの人達。
 シアトルから生まれた涅槃はしかし、このアルバムよりも初期の汚らしい音質の曲の方がより彼ららしい狂気を生み出していると思うのだが、スメルズ~の大ヒットによって世界的に認知されたという事実によって、わりとキャッチーなイメージで括られている。
 本質はもっと荒削りでジャンクな感覚が核にある筈なのだが、驚異的な売り上げのこのアルバムのイメージがあるため、巷ではポピュラーなロックバンドといった位置で語られている。
 でもまぁ、ボーナスに入っていた「エンドレス・ネームレス」を聴けば、クスリのニオイがツンと鼻を刺激するのであるから、きちんと聴き込めばそれなりに違った世界が見えてくる。
 ブートなどで聴ける『ブリーチ』以前の音源や、自宅で録音されたようなカートの弾き語り(?)音源を聴いてほしい。そこではカート・コバーンという一人のロック好きの青年のストレートな一面が窺えるだろう。彼はザ・ナックやビートルズが好きで、レッド・ツェッペリンやエアロ・スミスを通過し、ワイパーズやメルヴィンズに心酔していた、よくいるロック好きの一人だということを認識した上で、このバンドを聴きなおしてほしい。田舎町の青年の遊び心が、ここまで見事に表現されている例を私は他に知らない。
 

投稿者 asidru : 20:32 | コメント (0) | トラックバック

Harpers Bizarre 「Secret Life Of Harpers Bizarre」

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 バーバンク・サウンド。バーバンクというのはちなみに地名です。
 いま再びこの名盤を聴くと、スタジオ作業における魔法の仕組み方というものの基本が全てここに凝縮されていることに驚く。まさにキャッチー&ドリーミー。夢の世界の入り口である。
 しかしながら、冷静にその夢の世界を凝視してみると、実は極端に捻じ曲げられた狂気の道化であったことに気づかされる。
 ポップ性の裏側に潜む狂気の重さというものが、このアルバムの意味を強く持ち上げて支え続けているのではないだろうか。
 心地よい夢が、悪夢へと切り替わる瞬間のカタルシスが、ハーパース・ビザールのサウンドが我々に仕掛けた魔法なのであって、その魔法はこうして現在も作用しているのだからやはり偉大なグループであったと思う。

投稿者 asidru : 21:12 | コメント (0) | トラックバック

LSD  「DISCOGRAPHY 1983-2005 HATE」

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 …やっと!! 本当にやっと発売されたLSD。
 期待どおり充実のライヴ音源(音質は微妙)が最高で、DVDももちろん良い。
 何度聴いてもカッコイイ名曲の数々。前から疑問だったのだが、「憎悪戦争」は「ぞうあく」と発音しているのだが、これは意図的なものなんだろうか。どちらにしろ言語的に物凄い破壊力である。
 ハードコアの概念がどのようなものだったとしても、「JAST LAST」における岡田有希子ジャケのインパクトはその枠外に飛び出してしまい、凶悪な忌まわしいイメージだけでこのバンドが語られてしまう危険性を孕んでいた。しかしながら、LSDという存在が現在まで軽視されなかったのは、一種の呪いであったと解釈しても良いだろう。彼らの音、特にこのアルバムを通して聴けば、ただならぬ気迫とハードコアとしてのレーゾンデートルが鼓膜から直に脳へ伝達されていくのを感じ取れる筈だ。その感覚を今後育っていく世代の子供たちに伝えて欲しい。我々の時代で知りえた素晴らしいことや凄まじいことを、そっくりそのまま未来へ送り届けられるなら、それほど報われるものもないだろう。
 だからこそ、こういった再発盤には意味がある。

投稿者 asidru : 20:11 | コメント (0) | トラックバック

REAL 「democratic ghetto」

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 日本で唯一の、本物のポリティカルパンク。
 「愛のかけら」や連作ソノシートに続いてリリースされた本作は、さらに演奏にまとまりも出てリアルというバンドの凄みが増している。まさに職人芸というか、洗練された世界が見事なまでに構築されているし、このバンドが最初から根本的に信念を曲げていないこともよく分かる。
 ここまでの本格的なポリティカル・パンクが日本という土壌でポピュラリティを得ないのは、ぬるま湯のような偽りの平和に国民が安心しきっているからであり、その腐敗した魂にリアルは噛み付く。
 システムに惑わされず、偽善を憎み、本当の平和を追求する。リアルの一貫した姿勢は神々しくもあり、この時点で結成から10年以上という相当なキャリアを持っているバンドなのに、初期衝動的な気持ちがまったく衰えていないことに驚愕せざるをえない。
 メロディアスなギター、的確なリズム、そしてポリティカルな歌詞を鋭い発声で聞かせるヴォーカルは、まさに日本の誇るべきパンクのあり方だと思う。
 初期の頃はハードコア系のギグに参加し、ADKからリリースもしていたリアルだが、ここにきてその理由がなんとなく分かった気がする。彼らは精神的にハードコアの先を見据えていたのだろうし、パンクという形で表現できる自分たちの意志を強固に確信していたのだろう。だからこそ、当時のハードコア勢とともにライヴをやり、周りを圧倒するような強烈なオリジナリティを発していたのだろうと考えられる。
 リアルほど真摯なポリティカル・パンクは今後出現することはないだろう。

PS.資料提供で協力していただいた吉澤様に感謝いたします。ありがとうございました!!

投稿者 asidru : 14:34 | コメント (0) | トラックバック
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