2004年12月のアーカイブ

Atmosphere 「The Lucy Ford」

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 ある種の高揚感と物語的な進行がうまく比例していた場合、情緒の欠落した表現であってもそれは偉大なる芸術として成立する。人間性や立場は関係ない。フェティシズム的な視点から脱却し、全体から感銘を受けることができる対象を音楽という形態に求めるのならば、このアルバムは避けて通れない門である。
 スラッグが詩人だろうとそうでなかろうと、アトモスフィアの開放的な側面というのは変わらずに開示されている。ここには、素晴らしい「雰囲気」が詰まっているし、それを否定することなどできる筈もない。本物のヒップホップを白人がやったって違和感は無い。ライヴでニルヴァーナの曲をカヴァーしてみせたって、スラッグという男の価値観は揺るがないのである。アトモスフィアは束縛されず、いつまでもストレートに保持している感情全てをむき出しにしてマイクに叩きつける。
 現在ではなぜかエピタフに移籍するなど奇妙な動きを見せていたが、何をやっていてもスラッグという存在は変わらずそこにある。次は何をしてくれるのか、そんな期待を抱かせてくれるのも、アトモスフィアの良いところで、今年の年越しはこれでも聴きながら過ごそうと思う。

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ガレージ・オープニングテーマ集4

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 モー娘。のメンバーらがかますガレージソングのVol.4。それにしてもダイナマイツのカバーって…。
 とにかく変にガレージを知ってたり知らなかったりして、歌ってるひとたちは全然ガレージじゃないため、純粋なガレージファンは聴かないでしょうね。
 若いひとたちがやってるんで、自然とパンクなスピリッツが表面化して、こういう風な暴力的音楽が出来上がったんでしょう。音質だけはナジェッツやバック・フロム・ザ・グレイヴに収録されているバンドより遥かに良いので、イメージだけガレージに浸りたいアイドルファンには良いですね。

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呪怨

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 今更観た呪怨です。映像のクオリティが高く、ストーリー性があまり無いところがハード・コアだなぁとひたすら感心した。
 恐怖の演出というのは、ダイレクトに「びっくり箱」のような形で登場する怪異よりも、この映画のようにチラチラさりげなく画面に映るような手法の方が斬新かつ効果的だ。続編はまだ観てないが、おそらく技術的にも向上し、さらに『怪異の見せ方』が鋭く磨かれているのだろう。この監督の力量には正直恐れいった。サム・ライミもそりゃ絶賛するでしょうね。
 映像で人を怖がらせるということにおいて、清水崇監督は天才である。ただ、全身白塗りの子供はアングラ劇団みたいで怖いというより変。なのであのキャラは個人的にはマイナスでした。

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Stiff Little Fingers 「Inflammable Material」

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 よく考えたらクリスマスがいつの間にか過ぎ去っていて愕然。今年も普通に仕事して帰って寝た。
 中学生のころ、クリスマスは一人湿った部屋でこのアルバムを聴いて、Suspect Deviceをフルボリュウムで流しながら興奮していた。彼女のいない、ビデオばかり観ている陰気な少年だった僕には、Stiff Little Fingers のようなストレートなパンクロックがやけに刺激的に思えた。
 もうしばらくこのアルバムを聴いてない。かつての興奮を思い出して、再び聴こうという気にもなれない。あの頃のモテなくさえない少年だった自分を思い出すのが嫌なわけじゃなく、単純にこういうのを聴くというのが億劫になっているだけだ。もし軽い気持ちで聴いてしまって、過去の興奮を台無しにするのが怖いのかもしれないが、まだ未聴ならば是非聴いておきたいレコードである。それもなるべく若い時期に。

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KYUSS

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 本日のストーナー。カイアスはかなりカッコイイんで、この手の遅くて重い音楽の初心者でもけっこう楽しめる作りになってると思う。やる気なくごろごろ寝て過ごす日には最高のBGMですね。
 若人あきらと郷ひろみが交互に出てきてストリップしてるような狂った世界が延々と続き、間違ってリピート設定にしていた日には間違いなく墜落。そして涅槃。そんなカイアスはこのアルバムがやっぱり一番イイですね。 それと、別にこういう音楽ばっかり聴いているわけじゃないんで、誤解しないでください。最近ドゥームメタルとか好きなんですか? という質問が多く辟易したりしなかったり。マスト。

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Electric Wizard 「Supercoven」

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 ドゥームロックとかストーナーズ・ロックって流行ったよね。やたら重くて遅くて暗いやつ。こういうの聴いて何が楽しいんだろう。どういうやつが聴くんだろうね、こういうの。ちなみに僕は聴きましたけど。しかも結構好きです。
 誰もいない沼でゆっくり沈んでいく感覚プラス、競馬で全財産スッた後のような喪失感がどろどろと押し寄せてくる奇怪なロック。ブラックサバス辺りのバンドがルーツなんだろうけど、最近の若いバンド連中は節度を知らないのでこういうドロドロの遅くて重い極地まで行ってしまったのです。
 嫌なことがあったときとかは逆にこういうの聴くといいかも知れない、そんな名盤。

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AMBOY DUKES

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 何故だか思い出せないけれど、以前知人が突然宮沢りえの「サンタフェ」をくれた。引越しのどさくさに紛れてそれは紛失してしまったのだけれど、その写真集をなんとなく見ながら、このAMBOY DUKESの1stをよく聴いた。
 テッド・ニュージェントのギターが聴きたいのなら、ソロや他のアルバムでもいいが、AMBOY DUKESというガチガチの基本サイケをまず押さえるならここから。とはいえ、サイケというよりもブルース風ハードロックと言った方がイメージし易いかもしれない。
 ハードロックのファンって意外と少なく、そのダサさというか、田舎臭さに耐え切れる人間が年々減ってきているような気がする。子供の頃はみんなツェッペリンだとかディープ・パープルだとか言ってるのに、中学へ入った頃から急にメタルだのパンクだのと言ってカッコつけるというのが現代の児童心理。そのまま大人になって、こういうのを聴き直すのもいいが、できれば多感な学生時代に聴いておきたいアルバムである。ちなみにオリジナル盤はバカ高。

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LINDA PERHACS

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 落ち着きたいと思ってもなぜか立て続けに用事が重なってしまい、休む暇がどんどん削られていく。それでも休日はのんびりとどこかへ行きたいという現代人にオススメ。
 これ、ハワイの女性シンガーのアルバムなんですが、やたらと完成度高いです。質感としてはサイケというよりカントリー。だけど透き通った声とサウンドの裏側にあるものは、万華鏡のように変化し続ける天然サイケデリック模様。いままであんまり評価されてなかったのはただ単に認知度が低かったからか。ちなみに現在ではCDで簡単に入手可能。やすらぎと酩酊をミックスせず、敢えて別々に提示しているような斬新さにため息。

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セオリー・オブ・マーダー(ファットマン)

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 とんでもない映画である。まず、劇場公開時のタイトルが「ファットマン」で、DVD化の際に「セオリー・オブ・マーダー」という意味不明の邦題が勝手に付けられたのだが、原題は「Theory of the Leisure Class,The(有閑階級の理論)」だ。この原題を知らずに、これをサスペンス映画と勘違いして見てしまうと大変ムカつくというか、うんざりすると思う。これはそういう映画なのである。
 最初に言っておくと、ストーリーというか、脚本がダサい。こういうのを真正面から捉えてしまうと痛い思いをするが、撮影センスは良いので「そういう映画なんだなぁ」と思って観れば耐えられるだろう。
 これはアメリカの田舎町の社会がどれだけ奇怪に歪んでいるかを提出してみせた映画であって、D.リンチみたいな世界を狙って撮ったわけではないと思う。たしかに演出が「ツインピークス」っぽくもあるが、ここで描かれている殺人は物語の主題にはなっていないのである。
 登場人物が全員歪んでいるし、彼らの住む世界もまた奇怪に変形している。そんな場所でそんな人間たちが行う歪んだ行動をエンターテイメントとして見せたこの映画は、実はかなりの傑作なのかもしれない。ジョン・ウォーターズやHGルイスの映画と、やろうとしていたことは同じなのではないだろうか? 最悪なものをそのまま最悪だと割り切って主題にしてしまうというのは、なかなかできることではないし、できたとしてもそんな映画は誰からも相手にされない。
 本作の魅力は、だらだらと進行する狂った世界の日常であると思う。こういう悪意の詰まった映画が最近は少なくなっているが、この映画を観てちょっとは希望が持てるようになった。忘れていた懐かしい感覚を思い出したような、そんな気持ちにさせてくれてありがとう、ガブリエルNボローニャ。ただ、一言だけ言うと、主演のチューズデイ・ナイトが結構なブスで困った。感想はそれだけです。

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ラモーンズ「ロケット・トゥ・ロシア」

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 ドンキの放火事件のニュースで思い出したのが、なぜかこれ。別に関連性は何一つ無い上に、何年も聴いてなかった一枚である。
 シーナはパンクロッカー、などと説明されてもどんな顔をしていいのか分からず、椎名誠や椎名林檎は絶対にパンクではないなぁ、などという、どうでもいいことに思考が傾き、すべてを虚脱させる魔の音楽。
 早くて短く簡単。そんな便利そうなキャッチフレーズが付くラモーンズは、本当にパンクロックの基礎を築いたのであろうか? ここにある音は凶暴なまでにいい加減で投げやりなロックンロールでしかないし、ニューヨークで生まれたとは思えないほど田舎クサイ風味に満ち溢れている。ただ、ろくでもない若者が適当にロックを演奏している様子は1stの方が良く伝わってくるので、まずはそっちから入ると攻略できるかも。
 ともかく、ラモーンズの音は青春というより、引きこもりのシンナー遊びといった風情である。

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ムーンライダーズ「マニア・マニエラ」

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 ハイテクな感じがするが、機材は今ではもう古いものばかりを使用。しかしここまで完成度の高いポップスも珍しいので、結構聞き込んだ。こういうのも聴いてないと時代の流行に取り残されてしまうのですね。
 さて、今現在これを聴きなおしてどう思うかと訊かれても、何とも答えられないというのが正直な意見である。昔、高校の帰りに川崎の工業地帯を意味無く散歩していたときの気分をちょっと思い出すぐらいで、あとはテクノポップだなぁ、という感想しか持てそうも無い。
 でも素晴らしいアルバムなんだけどね。うまく伝えられません。ムーンライダーズってポップなんで軽いイメージがどうにも障害になってて、敬遠してしまいがちなのです。
 でもたまに間違えて聴いたとき「あっ、いいかも」なんて思えるっていうことは、やっぱり名盤なのかな。しょうゆとソース間違えたけど美味いみたいな気持ちで推薦。

投稿者 asidru : 23:08 | コメント (0) | トラックバック

PRONG

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 ゲゲゲの鬼太郎に出てくる目玉の親父の存在と、バタイユが醜悪な父親について書いた「眼球譚」の関係について考えてしまうのは、ひとえにこのジャケットのせいであって、決して中身はそこへ接続されていない。
 このバンドが凄かったのは、近年大流行したラウド・ロックのプロトタイプとでも言うべきサウンドをいち早く提示していたからであって、そこに秘められた思想性ではまったくない。しかしながら、ここまで簡潔にハードコアともメタルとも違った切り口で、「重さ」を表現する方法を編み出したという点ではかなり評価されるべきバンドだと思う。
 で、たまに聴くと意外とまだカッコよく、何回か売り飛ばそうとしたができなかったアルバムが本盤である。へヴィ・ロックが好きだと言うなら一応押さえておいても損は無い一枚。

投稿者 asidru : 22:41 | コメント (0) | トラックバック

コクシネル

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 ピナコテカから出た三角変形ジャケの有名なレコード。で、最近CDで再発されたんだけど、コクシネルってやっぱすごいなぁ、と感動。前衛でもポップでもなく、静かに風景を形作っていく音楽である。
 懐かしい景色や、御伽噺のような世界観をぎこちない演奏で構築していくコクシネルの演奏形態は特異であり、いつの時代でも有効なクスリである。
 だから、この盤に今から触れても決して遅くないし、聴いて何の感想も持たないというのも有りだと思う。演奏がヘタクソだとか、音質が悪いと言われても、このレコードは個人的に大好きだ。だから、次のボーイズツリーの方も、少し整った音になってしまっていたが、かなり聴き込んだ。
 こういう「うた」が素直に響くレコードの良さに世間の注目が集まり始めてから、それに答えるように様々な名盤が再発されたり新譜で出たりといった現象が起きて、こういった音源さえも簡単に聴けるようになった。喜ばしい限りである。

投稿者 asidru : 17:51 | コメント (0) | トラックバック

ODBの死

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 ODBが死んだ。
 ウータンの中でも飛びぬけて危ないラップをする天才だったODB。まるで酔っ払いが地下鉄のカベに文句を言っているような、極限のぼやきラップをかましてくれた彼が、つい先月亡くなった。
 オール・ダーティ・バスタードが好きだ、というヒップホップファンが少ないのは、彼のラップがあまりにも自然体で、飾りっ気の無い素朴な性質のものであったからだと思う。政治や世の中への不満をぶつけるわけでも無く、愛だの恋だのをわめくでも無く、ODBは自分と対話し、それをマイクを通じて拡大してみせただけだった。
 トラックも奇怪だし、ラップが意味不明の呂律が回っていない状態なのだから、一般的な支持を得られなかったのにも頷けるが、個人的にODBの奇妙なスタイルが好きだったし、死んでしまうにはあまりにも早過ぎた感じがしてならない。
 これからODBの追悼盤とかがかなり出ると推測されるが、それらは全部まやかしだ。彼のラップは死とともに終わったのであるし、これ以上掘り返してみても新しい発見など期待できないであろう。僕らはもうあの奇妙なラッパーの新作を二度と聴けないのである。それは重大な喪失であったと思う。

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フレッシュ「おきまりの午後」

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 たしか高木完のユニットだったと思う。パンクだけどけっこうニューウェーブ寄りで、ゴジラレコードから出してた。
 フレッシュみたいなバンドってもう出てこないと思うし、やろうと思う者もいないだろう。当時の東京だからこそ出来た音というのは、東京ロッカーズの他のバンドもそうだけど、現在再現できそうもない一種独特の感触があり、得体の知れないノスタルジーに支配されている。その乾いた感覚の懐かしさというものは意外に心地よく、ぴりぴりとした都会の夜に飲み込まれていく。フレッシュの音は別に斬新ではないし、フリクション等と比べたら強度も無い。ただ、これはこれでオリジナリティのある日本のパンクだったという事実が重要だ。
 こういう盤をなんとなく聴くというのもいいし、それはそれでおきまりの午後である。

投稿者 asidru : 20:37 | コメント (0) | トラックバック

TNB

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 工事現場の前で突っ立っている時に聞こえてくる騒音と全く同じなので、昔警備員のバイトをしていた頃のことを思い出して陰鬱な気持ちになる一枚。
 TNBの騒音は強烈な物音系ノイズである。つまり、ドカッ、バリバリ、ガシャン、ギギギ、バタンというような音が凶悪に連続するキング・オブ・物音なのだ。こういう音楽を聴いてエキサイトするような奴はロクでもない不良ぐらいなもので、金属バットで通行人を手当りしだいに殴りたくなる衝動にかられる迷惑な音楽である。
 きわめてストレートなノイズとして、TNBの功績は評価できる。本作も500枚限定であるが、内容が凄まじい轟音なので、見かけたら即買いしても大丈夫。過去の作品も良いが、最近のTNBの方がより激しさを増していて個人的には気に入っている。

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マタンゴ

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  63年作、サイケな特撮SFホラーである。
  R・G・ワッソンが 『聖なるキノコ ソーマ』の中で、ベニテングダケこそが古代インドのシャーマニズムで神格化されていたソーマではないか、との仮説を打ち立ててから、キノコに宿る霊性が再び注目され始めた。そして巷には例の「マジックマッシュルーム」が流行り、すぐに規制されるも、その幻覚を誘発する神秘的な側面でのイメージだけが膨れ上がり、いつしかキノコというものの存在が特別視されるようになった。
  この映画でのサイケ感覚はドラッギーな幻覚を根にしておらず、シャーマニズムからのインスピレーションが強いような印象を受ける。ストーリーがただのサイケムービーで終わらせずに、追い込まれた人間の穢さや醜さをリアルに描ききっていたことからも、その精神的な作用といった点で、シャーマニズムに類似すると考えられるのだ。
  マタンゴを僕は昔台風の日に友人とわざわざレイトショーで観に行ったのだが、このあまりに強烈な展開とクオリティの高い映像に深く感銘を受けた。キノコに対してのイメージが変化したのはこの瞬間である。マタンゴは忘れられない思い出だが、同時に僕の中のキノコ観を一変させてしまったのだ。
  

投稿者 asidru : 21:24 | コメント (0) | トラックバック

ナース・ウィズ・ウーンド

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  正直、個人的に最も影響を受けたのがこのユニットである。というより、スティーブン・スティプルトンのセンスや技術には今でも脱帽する。彼がいなかったら現在の音響系とよばれる音楽も無かったのではないだろうか? 
  ヒップホップより先にナース・ウィズ・ウーンドに出会ってしまったが故に、サンプリングよりもテープ・コラージュに魅力を感じた。そして、ブリジット・フォンテーヌのレコードの意外な使用方法や、DJプレイの何たるかを徹底的に見せ付けられ、少年だった僕はただただスピーカーの前で呆然とするしか無かった。
  NWWが構築したのは、極端なフェティシズムと、ドリフのコントばりに破壊的なインパクトをあわせ持った混沌である。ただし、NWWの音楽は自分の気に入った音を、ただ素直にループさせたりカットアップしてるだけ。ただそれだけなのであるが、そこに組み込まれた尋常じゃない情念めいた気配が不気味に作用し、レコードである、又は音楽であるという線引きを不能にしてしまっているのだ。
  このような形態の音を言語的に認識して語ったり理解するのはどうかと思う。カテゴリ的にはノイズ・アバンギャルドのコーナーに置かれることが多いが、実のところはノイズでもなんでもない。そんな、ただひたすら不可思議な曼陀羅絵図を描き続けるNWWの世界を、より多くの人々が聴きこむような柔軟な時代になったらいいと思う。純粋にリスペクト。

投稿者 asidru : 14:56 | コメント (0) | トラックバック

マジカルパワーマコ

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  マコの19歳の頃のデビュー作。自宅録音の可能性が知りたければまず本作をハードリスニングするべきだろう。
  ここで描かれている宇宙は誰のものでもなく、マコはその宇宙を自在に切り取って広げることができる天才だ。200種類もの楽器を使いこなし、鍾乳洞で録音したり、奥さんや猫の声を取り入れたりする姿勢は柔軟というより不定形と言った方がいいのかもしれない。マジカルパワーマコが誰で、どこにいて、どんな人間なのかは関係ない。ここに詰め込まれた音楽の素晴らしさは、他のどんな存在も追いつくことのできない性質のものである。
  人は音楽を聴くと、まずそのミュージシャンや作品、または音楽を現在聴いているという前提の思考みたいなものが常に先行してイメージされるわけだが、マコの作品に限っては、そのプロセスが始めから破綻した状態で提示される。つまり、音を聴いているという感覚と、それによって引き出される筈のイメージがあらかじめ封印されていて、マコの作り出した宇宙が聴き手のイメージを侵食してしまうのである。
  マジカルパワーマコが宗教家や科学者にならなかったのは、自分自身で宇宙を操ったり創造することのできる人間だったからに違いない。灰野がヴォーカルで参加している「空を見上げよう」などを聴けばわかると思うが、マコは複雑な世界を構築するタイプでは無く、ありのままの宇宙を目の前に広げるような手法で、常に聴き手を圧倒してきたのである。
  本盤の他、ポリドールからの三枚と、最近の音響風の楽曲、そしてマムンダッドから突如リリースされた未発表音源集と、どれを聴いてもマコという宇宙がぽっかりと口を開けている。そこに飛び込む勇気さえあれば、簡単に世界を変えることが可能なのだ。

投稿者 asidru : 19:06 | コメント (0) | トラックバック

花電車

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  へヴィロックな1st花電車。後の宇宙トランスサウンドも好きだが、思い出深いのはやはり本作。
  ファズギターとかなりインパクトのあるヴォーカル。まさにロックである。
  初期花電車の魅力は、そのへヴィサイケなサウンドにある。関西でなければ生まれなかったであろう特殊なバンドであるが、もっと一般的な評価を得てもよかったのではないかと思う。
  イメージの破壊では無く、むりやり引き出された記憶を変形させてしまうことができたすばらしいバンドである。

投稿者 asidru : 16:33 | コメント (0) | トラックバック

マリアンヌ・フェイスフル 「ブロークン・イングリッシュ」

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  かつての歌声とは別人の嗄れ声になり、パワーアップ(?)したマリアンヌ・フェイスフルの出世作。
  しかし、これほどまでに人生の苦労というか、疲労感覚を身に纏ったレコードも珍しい。場末のバーで飲んだくれる女の心の荒廃をそのヴォーカルが代弁している。
  音的にも当時のニューウェイヴ感覚とうまくリンクし、薄暗い世界観がストレートに浮上。かつてミックジャガーに愛された女は、クスリを経由して全く別の魅力を伴い、シーンへ再来した。しかし、その分失ったものも大きかったのではないだろうか?

投稿者 asidru : 15:34 | コメント (0) | トラックバック

ラ・デュッセルドルフ 「VIVA」

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  色んな意味で凄いと思った。何を考えているのか分からないを飛び越えて、何をやってるのかすらも分からない。
  わりとキレイな電子音と、タイトなリズムにシャープかつ広がりのあるギター。ノイの頃もいいけど、これと次の「個人主義」は欠かせない。キャプテントリップから突如として大量にクラウス・ディンガー関連の音源が発表されたが、全て聞く気にはなれないし、金も無いのでまず押さえておきたいのはこの辺ということになる。
  この時代のジャーマンロックを後のニューウェイヴやテクノの源流としてとらえても良いと思うが、それ以前に存在としてのインパクトが強烈すぎるために、個々の評価を各自が行わなければ、こういった作品は成仏しきれないだろう。つまりは自由研究の課題としては優秀な材料と言える。

投稿者 asidru : 14:38 | コメント (0) | トラックバック

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 メタルボックス。だけど僕の持ってるやつは缶が錆びてしまって赤錆ボックスと化している。
 でも肝心の中身は状態よく保存でき、未だ現役で聴ける。
 ジョン・ライドンが行き着いたのがこのような地平だったことは、パンクというカテゴリの持っている虚無感覚の肥大が原因である。つまりはやる気がないフリをするフリ。偽りのニヒリズムを飛び越えた本物の虚無感が鋼鉄の入れ物に詰まっている本作は、若いうちに聴いておきたいアルバムベスト10位以内には必ず入れたい名盤だ。
 正直、ピストルズなんか聴かなくても何ら問題はないが、こっちは必聴。パンクでいることの意味や、反抗することの果てにあるものが、ゆったりと首をもたげてこちらを見つめている。逃げられない恐怖と底知れない喪失感に脅えるときは、かならずこれがBGM。

投稿者 asidru : 22:50 | コメント (0) | トラックバック

Gang Of Four 「EnterTainment!」

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  初めて聴いたとき、そのスタイリッシュな感覚が逆に嫌だったが、そういった感じはすぐに払拭された。何せ、ギターがカッコ良過ぎる。ここまでキメてくれると気持ちいいくらいだ。
  イギリスのパンク、というとどうしてもメロディが付きまとうイメージがあったのだが、アンディ・ギルのギターにはそういった緩さがまったく無い。ザクザクと無機質にリズムを刻んでいくギタープレイを、このアルバムで覚えたというミュージシャンも多い筈。内容はやっぱり政治的で、ポリティカル・パンクなのかと訊かれたら頷くしかないだろう。
  77年のパンクがここまで強烈なインパクトを持っていると、奇怪ですらある。

投稿者 asidru : 11:52 | コメント (0) | トラックバック

悪魔のいけにえ

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  ヒッチコックのサイコと同じで、エド・ゲインをネタにしたスプラッタムービーとしてはおそらく最高傑作。ただ、監督のトビー・フーパーはエド・ゲインにインスピレーションを受けたというより、「サイコ」の方からの影響が濃厚に見える。
  ヒッチコックが「サイコ」でバーナード・ハーマンを起用し、あのような不協和音の神経を逆撫でするようなスコアを劇中で効果的に流したのに対し、フーパーは自らアナログシンセをいじくり回し、凶暴な電子ノイズを垂れ流した。
  それは、今考えるとフーパー流の「サイコへのオマージュ」だったのかもしれない。
  なお、フーパーの音楽はスコアに出来ないし、劇中に爆音で鳴り響くチェーンソーのモーター音と区別するのが困難なため、多分誰からも相手にされていない。
  それはそれで良い事だし、いまだにこの映画がキングオブホラーの名を欲しいままにしている事実からも、映画そのものの素晴らしさが損なわなけれさえあればそれで万事OKなのである。
  さて、この映画でのみどころは沢山あるが、個人的に気に入っているのはテキサスの家屋をリアルに映した風景としての「悪魔のいけにえ」である。ここでの風景の描かれ方は図抜けており、テキサスの一般的な町並みを完璧なまでに描ききっている。こういった場所で「あのような」出来事が起こるのだから、その相反する二つの対象の奇妙な相乗効果で、恐怖を演出するというフーパーの試みは見事に成就しているのである。
  傑作であると言わざるをえない。

投稿者 asidru : 11:13 | コメント (0) | トラックバック
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