JEREMY DORMOUSE 「THE TOAD RECORDINGS」

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 レアフォーク。ところどころにサイケな香りあり。67年録音、68年発売のカナダの名盤。
 いきなりボブ・ディランのBaby Blueのカバーから始まるものの、声が気だるい感じで実にゆったりと聴かせてくれるアレンジになっている。
 レナード・コーエンのカバーもさらっとした質感でやってのけるし、レア盤にしておくのはもったいないぐらい聴きやすいサウンドである。

 何年か前にCDで再発されていたので、今も探せば見つかると思う。オリジナル盤はまず見たことありませんが、あったとしても高価なのでCDで入手することをオススメしたい。

 と、こういう普通のレビューを書いていると「前みたいな批評っぽい感じで書け!」というリクエストなんかもあったりして、最近はブログ更新が遅れまくっている。
 現在、音楽レビューはただ上記のようにレコードの紹介をするもの、個人的な感想を書くもの、そして批評するものの三つに分かれていると思う。特にこういう個人のブログでやっているようなディスクレビューというのはたいていが紹介や感想であって、批評は行われていない。
 音楽を批評することにはそれなりの意義はあると思うのだが、それを選択して、一円にもならない個人のブログ内で展開していく、という人は見たことがない。
 きっと、現代では音楽批評はできないんじゃないかと思う。
 それは、個々のリスナーが充分な批評を自己完結的にできてしまうからではなく、ただ単に情報の氾濫と、山のように毎日どこかで発売されている音源の量があまりにも多すぎて、聞き手の認識から批評というものが抜け落ちてしまっているからだと思う。
 いま間章のような書き手がいたとしても、音楽出版社はその批評家を無視すると思う。そして、代わりに情報だけを抽出して紹介できるライターを量産していくのだ。
 今たとえば、浜崎あゆみの新譜とこのJEREMY DORMOUSEが同時に並んでいるとして、同じ人物が両方のレビューを書かなければならないという状況のとき、浜崎とJEREMYを均一化してまとまりのある文を書くためにはやはり「紹介」というスタイルを読み手も書き手も編集者も選択してしまう。ここでちょっと先鋭的な批評家が両者をガチで論じたところで、読者は読まず、編集者は勝手に文を改竄し、批評という文化は廃退していくのである。
 それは何か寂しい気がするが、世間はJEREMY DORMOUSEのレコードにいかなる霊性が在るか? ということよりも、それが何年にどこの国から出て、どんな曲が入っているのか? という方に興味があり、メディアはじゃあその知りたい部分だけをご紹介しますよ~、という姿勢で読者のニーズに合わせたスタイルを作ろうとする。
 私は根性が捻じ曲がっているので、そういう姿勢には疑問を持つ。なぜ情報の送受信だけで人々は満足しているのだろうか?
 そしてそれは、音楽というものを情報ツールとしか扱えなくなってしまっている若い世代に多い。いまではテープやレコードでなく、MP3のような音楽ファイルで情報を得るような世の中であり、高い金を払ってでかいレコードを買い、じっくりA面B面を儀式のように正座して聞くなんていうやつはごく少数なのである。ただ、そういった儀式的な空気がなければ、音楽の楽しさや奥深さを完全に満喫することなどできないと私は思うのだが、ただ単に私が古い考えの人間なのだろうか?
 せっかく聴くなら、とことん深くまでいってみようという、一種の探究心が、現代人には足りていないと、私は思う。

投稿者:asidru 2006年11月08日 16:27

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コメント: JEREMY DORMOUSE 「THE TOAD RECORDINGS」

間章の、たかだか1レコードのライナーノーツに
フッサールやセリーヌやハイデッガーらの名を強引に羅列する
衒学趣味は今の時代ちょっと恥ずかしい気もしますが
いまの音楽ライターは「時代の未明から来たるべきものへ」の域に
誰一人たっしていない気がしますね。
青山真治監督の「AA」は未だ観れていませんが・・・

投稿者 M : 2007年03月02日 11:10

「AA」は私も未だ観ていないのですが、なかなか良いみたいですね。
間章は好きではないんですけど、やっぱり美しい文章を書く人という意味では尊敬に値します。
今の音楽ライターの方のほとんどは音楽批評をしていないので、多分ディスクレビューというもの自体が無意味になってくると思います。
何年の誰が作った音楽です、なんていう情報を知りたいだけならネットで検索すれば済む話ですからね。わざわざ音楽雑誌を買ってまで知る情報ではないと思うのです。。
どうなっていくか、ちょっと気になる業界ですけど(笑)

投稿者 森本 : 2007年03月02日 17:23

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