世の中の右と左そしてうしろ 暗がりで笑う人をみたときや 銀行のATMで現金を取り忘れたときに なんとなく読むブログ
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くすんだ色の熱気球が落下していく様子を見ながら、彼女はハンバーガーを頬張る。
ベンチの下には得体の知れない乞食の子供が潜んでいるが、別に何かを狙っている訳ではなかった。獲物を狙うならば、このような公園ではなく、山や森林、そして都会へ赴けばよい。獣や植物や人間を獲って食らえば、彼らが低年齢のまま死んでいくなんていう現実は起こらないからだ。
断絶の風景が時として彼女の瞳には緑色に見える。
モダニズム×ダダイズムだと思うと、そのような視覚の変容も日常的に繰り返される。
「ANOTHER GREEN WORLDはここでしょうか?」
口から胃袋を吐き出しているようなグロテスクな老人が彼女に尋ねる。けれども、彼女はイーノが既に死体にしか興味を持っていないことを知っていたので、老人に対しては無言で押し通す。
この時代のイーノはまだ別世界を信じていたし、生きた音楽を知っていた。カラフルなのに落ち着いた色調。イーノは音楽を生かしておく術も心得ていたのだろうと彼女は考える。
しかし、「NO NEWYORK」のあの時間が彼を殺してしまった。
いや、正確に言えば彼が音楽を殺す術を身につけてしまったと言えるだろう。
音楽の死骸から流れ出す血液を、イーノは無慈悲に洗い流し、新しいイメージとして作り変えてしまう。本質が死臭漂うモルグのような暗澹たる雰囲気の地平から生まれたなどとは、イーノの音楽を聴くものには届かない。
「だからイーノは表面的には変わっていないように見えるのです」
彼女はいつの間にか声に出してそう言っていた。
崩れ落ちた老人の死骸を、ブライアン・フェリーの引くリアカーが回収する。
それからというもの、彼女はANOTHER GREEN WORLDのことを考えると、いつも腐った肉のニオイがするようになったのである。
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